脳卒中を疑うサイン「FAST」を覚えておく
急に顔がゆがんだ、片方の手に力が入らない、言葉が出てこない。こうした症状が突然あらわれたときは、脳卒中を疑います。脳卒中は、治療を始めるまでの時間が経過に関わる病気です。そこで覚えておきたいのが「FAST(ファスト)」という合言葉です。ここでは、FASTの意味と、症状に気づいたときにどう動けばよいかを整理します。
まず結論:FASTに当てはまったら、その場で救急要請を
FASTのいずれかに当てはまる症状が突然あらわれたときは、様子をみずに救急車を要請してください。日本脳卒中学会が監修し日本脳卒中協会が協力した資料でも「すぐに救急車を呼びましょう」と示されており、「治療は早く開始するほど効果があります」と説明されています。
自分で運転して来院する、翌朝まで待つといった対応は避けてください。軽く見えても、脳の血管で起きていることは進んでいる場合があります。
- 「突然」始まったかどうかが手がかりになります
- 症状が出た時刻をメモしておきます
ただちに救急要請を検討すべき症状
次の症状が突然あらわれた場合は、時刻を確認したうえで、ためらわずに119番へ通報してください。・顔の片側がゆがむ、口角が下がる
・片方の手足に力が入らない、しびれる
・言葉が出ない、呂律が回らない、相手の話が理解できない
・今までに経験したことのない激しい頭痛
・片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
・力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする
脳卒中とは何か。3つのタイプ
脳卒中は、脳の血管に起きる病気をまとめた呼び方です。厚生労働省 e-ヘルスネットでは、脳の血管が詰まる「脳梗塞」、脳の血管が破れる「脳出血」、血管にできたこぶ(動脈瘤)が破裂する「くも膜下出血」に分けて説明されています。
令和6年(2024年)の人口動態統計(確定数)では、脳血管疾患は死因の第4位で、死亡数は102,821人でした。また2022(令和4)年の国民生活基礎調査では、介護が必要となった主な原因のうち脳血管疾患(脳卒中)は16.1%で、認知症(16.6%)に次ぐ2番目に挙げられています。
危険因子としては高血圧がとくに重要とされ、e-ヘルスネットでは「高血圧が完全に予防できれば、日本人の脳卒中は今よりも約半分に減ると考えられ」ると説明されています。ほかに糖尿病、喫煙、肥満などが挙げられ、心房細動という不整脈があると脳梗塞になる確率が2〜7倍高くなるとされています。
FASTの4文字が示すもの
FASTは、脳卒中で起こりやすい3つの症状と、時刻の確認を組み合わせた合言葉です。
| 文字 | 意味 | 確かめ方の例 |
|---|---|---|
| F(Face) | 顔の歪み | 「イー」と言って歯を見せてもらう。片側の口角が下がる |
| A(Arm) | 手の力が入らない | 両手を前に上げて保ってもらう。片方だけ下がってくる |
| S(Speech) | 呂律が回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない | 短い文を復唱してもらう。名前や今いる場所を尋ねる |
| T(Time) | 症状が出た時刻を必ず確認 | 時計を見て時刻を記録し、すぐに救急要請する |
3つのうち1つでも当てはまれば、脳卒中を疑う根拠になります。「片方だけ」に起きている点が特徴です。
FAST以外に注意したい症状
同じ資料では、次のような症状も脳卒中を疑うものとして挙げられています。
- 経験したことのない激しい頭痛
- 片方の手足・顔半分のマヒ・しびれ
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
- 力はあるのに立てない、歩けない、フラフラする
とくに「今までに経験したことがない激しい頭痛」は、くも膜下出血で起こることがあります。頭痛薬でしのがず、救急要請の対象と考えてください。
発症時刻がなぜ重要か
治療方法の選択に、発症からの時間が関わります。詰まった血のかたまりを薬で溶かす静注血栓溶解療法(rt-PA療法)について、日本脳卒中学会の「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023年9月追補」では、発症から4.5時間以内に治療可能な患者に対して行うとされています。
カテーテルで血のかたまりを取り除く血管内治療という方法もあります。対象となる条件や時間の扱いは検討が重ねられており、患者側で「間に合う時間かどうか」を判断する必要はありません。発症後できるだけ早く救急要請をすることが、選べる治療の幅を広げます。
確認しておきたい3つの時刻
同じ資料では、次の3つの時刻を確認することが重要とされています。
- 発症した時刻
- 発見した時刻
- 最後に無事だった時刻
朝起きたときに症状に気づいた場合など、いつ始まったか特定できないことは珍しくありません。指針では発症時刻が不明な場合、原則として「最終健常確認時刻をもって発症時刻とする」とされています。「最後に普段どおりだったのはいつか」を伝えてください。
症状が短時間で消えても受診が必要な理由
症状が数分から数十分で消えてしまうことがあります。一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれる状態で、そのあとに脳梗塞を起こすことがあります。「治ったから大丈夫」と考えず、早めに医療機関にご相談ください。
当院での対応と、脳卒中を起こしにくくする生活
当院では内科で、高血圧・糖尿病・脂質異常症などの継続管理を行っています。脳卒中は、起こってからの治療だけでなく、危険因子を整えることが予防につながります。e-ヘルスネットでも、減塩、減量、禁煙、適度な運動、年1回の健診受診が予防として挙げられています。健診の内容は健康診断のページでご案内しています。
なお、急性期の脳卒中が疑われる状況では、当院を受診されるより先に救急要請をお願いします。当院は急性期の血栓溶解療法や血管内治療を行う施設ではありません。
参考文献
- 日本脳卒中学会 監修/日本脳卒中協会 協力「脳卒中の予防・発症時の対応」
https://www.jsts.gr.jp/common/asset/pdf/onset.pdf - 日本脳卒中学会「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023年9月追補」
https://www.jsts.gr.jp/img/rt-pa03_supple.pdf - 厚生労働省 e-ヘルスネット「脳血管障害・脳卒中」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-006.html - 厚生労働省「令和6年(2024)人口動態統計(確定数)の概況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/jinkou/kakutei24/dl/15_gaikyouR06.pdf - 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf
この記事は一般的な医学情報をお伝えするものであり、診断や治療の代わりになるものではありません。症状の受け止め方や必要な検査は、年齢・持病・服用中の薬によって一人ひとり異なります。記事の内容だけで判断せず、当院またはかかりつけの医療機関にご相談ください。血圧の管理については健診で「血圧が高め」と言われたら、まず読んでほしいこともあわせてご覧ください。
医療法人 新治診療所 院長。日本消化器病学会 専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医。茨城県土浦市下坂田で、内科・小児科・胃腸科の診療にあたっています。わかりやすい説明を心がけ、地域のかかりつけ医として健康維持をお手伝いしています。
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