貧血と言われたら。鉄欠乏性貧血の原因と対応
健診の結果に「貧血」「ヘモグロビン低値」と書かれていて、気になっている方は少なくありません。貧血のなかでもっとも多いのは、鉄が足りないことで起こる鉄欠乏性貧血です。ただ、大切なのは「鉄が足りている/足りていない」だけではなく、なぜ足りなくなったのかを確かめることです。ここでは、貧血の目安となる数値と、受診後の流れを整理します。
まず結論:貧血は結果であり、原因を確かめる
貧血は病名ではなく、血液が酸素を運ぶ力が落ちている「状態」を指します。鉄欠乏性貧血と分かった場合も、そこで終わりではありません。日本鉄バイオサイエンス学会の指針では、成人男性および閉経後の女性の鉄欠乏では消化管からの出血がほとんどを占めるとされ、必ず何らかの原因があると考えるべきと記されています。
- 健診結果はそのままお持ちいただく(過去の結果があれば経過が分かります)
- 市販の鉄のサプリメントを自己判断で続ける前に、一度検査を受ける
- 便の色が黒い、月経の量が増えた、といった変化は必ずお伝えいただく
貧血の目安となるヘモグロビン値
貧血かどうかは、血液中のヘモグロビン(Hb)の値で判断します。年齢や性別、妊娠の有無によって目安が異なります。
| 対象 | ヘモグロビン値の目安 |
|---|---|
| 成人男性 | 13 g/dL |
| 成人女性 | 12 g/dL |
| 思春期前の小児・80歳以上 | 11 g/dL(男女とも) |
| 妊娠前期・後期 | 11 g/dL |
| 妊娠中期 | 10.5 g/dL |
なお、特定健康診査では貧血検査(赤血球数・ヘモグロビン値・ヘマトクリット値)は「詳細な健診の項目」で、医師が必要と認めた場合に実施されます。健診の種類で項目が異なるため、結果票をご確認ください。
鉄が足りなくなる3つの経路
体の鉄が減る理由は、大きく3つに分けて考えると整理しやすくなります。
- 需要が増える:妊娠中は胎児の成長と分娩時の損失のため、1日あたり3mgの鉄が必要とされています
- 供給が減る:食事からの摂取が少ない、胃や腸の状態で吸収が落ちている
- 失う量が増える:月経では1日あたり0.6〜0.8mgの鉄が余分に必要になるとされ、消化管からの出血も含まれます
月経のある女性で多い原因
月経による鉄の損失は毎月続くため、食事からの補給が追いつかないと徐々に鉄が減っていきます。経血量が多い、期間が長い、レバー状のかたまりが出るといった場合は、子宮の病気が背景にあることもあります。月経の様子は遠慮なくお伝えください。
男性・閉経後の女性で注意したいこと
月経による損失がない場合、鉄欠乏の原因として消化管からの出血が中心になります。胃や大腸の病気が背景にあることもあるため、貧血の治療と並行して、出血源を確かめる検査を検討します。少量の出血は目に見えないことも多く、「症状がないから大丈夫」とは言えません。胃腸科・内視鏡のページもあわせてご覧ください。
鉄が不足すると出やすい症状
貧血そのものの症状として、動悸、息切れ、顔面蒼白などがみられます。ゆっくり進んだ場合は体が慣れてしまい、自覚しにくいことも少なくありません。
これに加えて、体の組織で鉄が不足することによる症状があります。爪が反り返ってスプーンのようになる(匙状爪)、舌の表面のつぶつぶが平らになる(舌乳頭萎縮)、飲み込みにくさ、氷などを無性に食べたくなる(異食症)といったものです。
行う検査と、フェリチンの位置づけ
まずヘモグロビンと、赤血球の大きさなどを表す指標(赤血球恒数)を確認します。鉄欠乏性貧血では赤血球が小さくなる傾向があります。あわせて、体に蓄えられている鉄の量を反映する血清フェリチンと、鉄の運び手の余力を示す総鉄結合能(TIBC)を測ります。
同学会の指針では、鉄欠乏性貧血は「貧血があり、TIBCが360μg/dL以上、血清フェリチンが12ng/mL未満」とされています。また、貧血はないのに血清フェリチンが12ng/mL未満の状態を潜在性鉄欠乏(いわゆる「かくれ貧血」)と呼びます。
ただしフェリチンの基準値には幅があります。WHOの基準では5歳以上で15ng/mL未満、5歳未満で12ng/mL未満とされ、30ng/mL未満を基準として採用する報告もあります。数値の高低だけで判断せず、症状や他の検査とあわせて総合的に評価します。また炎症があるとフェリチンは上がることがあり、解釈には注意が必要です。
原因を探すための検査
鉄欠乏性貧血と分かったら、次に原因を探します。便に混じった血液を調べる検査、胃や大腸の内視鏡検査やX線検査、女性では婦人科での評価などを、年齢や症状に応じて組み合わせます。
治療と食事の考え方
鉄が不足している場合は、鉄剤による補充を行います。ヘモグロビンは6〜8週で正常化するとされていますが、そこで終わりにはしません。同学会の指針では、鉄剤を中止する時期は「貧血が治り、かつ血清フェリチンが正常化したとき」とされています。数値が戻ったからと自己判断で中断すると、蓄えが十分でないまま再発することがあります。
食事では、肉や魚に含まれるヘム鉄の吸収率が25%程度、野菜・豆・穀物・海藻などに含まれる非ヘム鉄が3〜5%程度とされています。赤血球の寿命は約120日で毎日1%ほど入れ替わるため、鉄の補給もこつこつ続けることが大切です。ただし出血が続いている場合、食事だけでは追いつきません。食事は治療の代わりにはならないとお考えください。
当院での対応
当院では内科で血液検査を行い、貧血の程度と鉄の状態を確認します。原因を調べる必要がある場合は、超音波検査、胃内視鏡検査(極細径ファイバー)、胃・大腸X線検査などをご案内します。
診療時間は午前9:00〜11:30(水曜・土曜は9:00〜12:30)、午後14:00〜17:30で、水曜午後・土曜午後・日曜・祝日は休診です。詳しくは内科のページ、健康診断のページ、検査・設備のページをご覧ください。はじめて受診される方は初めての方へもご確認ください。
参考文献(最終確認:2026年7月)
- 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏・鉄欠乏性貧血の診断指針」(診断・診断基準)
https://jbis.bio/archives/%E2%85%B1%E3%80%80%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E3%83%BB%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F%E6%80%A7%E8%B2%A7%E8%A1%80%E3%81%AE%E8%A8%BA%E6%96%AD%E6%8C%87%E9%87%9D%EF%BC%9A3-%E9%89%84%E6%AC%A0%E4%B9%8F - 日本鉄バイオサイエンス学会「鉄欠乏性貧血」(PDF)
https://jbis.bio/all/pdf/tetu-ketubou.pdf - 厚生労働省 働く女性の心とからだの応援サイト「貧血」
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/health/anemia.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット「特定健康診査の検査項目」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-04-005.html - 厚生労働省 e-ヘルスネット「鉄」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/food/ye-022.html
この記事は一般的な医学情報をお伝えするものです。検査値の解釈や治療の方針は、他の検査結果・持病・服用中のお薬によって一人ひとり異なります。記事の内容だけで判断せず、当院またはかかりつけの医療機関にご相談ください。健診結果全体の読み方については健診の尿検査でわかること。慢性腎臓病(CKD)、疲れやすさが続く場合は甲状腺の病気。疲れやすさ・体重変化のサインもあわせてご覧ください。
医療法人 新治診療所 院長。日本消化器病学会 専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医。茨城県土浦市下坂田で、内科・小児科・胃腸科の診療にあたっています。わかりやすい説明を心がけ、地域のかかりつけ医として健康維持をお手伝いしています。
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