物忘れが増えた。加齢と認知症の境目
「人の名前が出てこない」「置いた場所を思い出せない」。年齢を重ねると、こうした物忘れは誰にでも起こります。一方で「これは認知症の始まりではないか」と気になる方も少なくありません。加齢による物忘れと認知症の物忘れは、どこが違うのでしょうか。判断の手がかりと、受診を考えたい変化を整理します。
まず結論:日常生活に支障が出ているかどうかが目安
両者を分ける手がかりは、記憶の量ではなく日常生活に支障が出ているかどうかです。厚生労働省の政策レポート「認知症を理解する」では、認知症は記憶や判断力などの認知機能が低下し「日常生活に支障が出る状態」と説明されています。
ただし、ご本人やご家族の印象だけで線を引くのは難しいものです。気になる変化が数か月続いているなら、心配を抱えたままにせず一度ご相談ください。
- 物忘れに気づいた時期と、変化の速さをメモしておきます
- できなくなった具体的な行動(火の消し忘れ、道に迷うなど)を書き出します
- できるだけご家族と一緒に受診されると、経過が伝わりやすくなります
加齢による物忘れと、認知症の物忘れの違い
同レポートでは、加齢に伴う物忘れは脳の情報処理能力が低下することで起こる一方、認知症では「経験したことそのものを忘れてしまう」と説明されています。この違いは日常の場面に置きかえるとわかりやすくなります。
| 場面 | 加齢による物忘れ | 認知症でみられやすい変化 |
|---|---|---|
| 忘れ方 | 体験の一部を忘れる(何を食べたか思い出せない) | 体験そのものを忘れる(食べたこと自体の記憶がない) |
| ヒントの効果 | 言われれば思い出せることが多い | 言われても思い出しにくい |
| 自覚 | 忘れたことを自覚している | 自覚が乏しくなることがある |
| 生活への影響 | 大きな支障はない | 買い物、金銭管理、服薬などに支障が出てくる |
| 進み方 | 大きく変わらない | 数か月から数年で目立つようになる |
認知症とは何か。原因となる病気はいくつもある
認知症は単一の病名ではなく、脳の神経細胞が働かなくなることで生じる状態を指します。原因となる病気として、アルツハイマー病、脳血管性認知症、レビー小体型認知症などが挙げられています。
日本神経学会の解説では、アルツハイマー病は「記憶の障害(もの忘れ)から始まり、徐々に認知機能全体が低下」していくとされ、初期には「少し前のことが思い出せない」という形であらわれると説明されています。
厚生労働省の将来推計では、2022年の認知症高齢者数は443.2万人(有病率12.3%)、2040年には584.2万人(14.9%)になると見込まれています。2022(令和4)年の国民生活基礎調査では、介護が必要となった主な原因の第1位が認知症(16.6%)でした。
中核症状と行動・心理症状
症状は2つに分けて説明されることがあります。記銘力障害、見当識障害、判断力・実行機能の低下などが「中核症状」、不安、抑うつ、幻覚、妄想などが「行動・心理症状」として挙げられています。後者は環境や体調によって変わりやすく、対応の工夫で軽くなることもあります。
軽度認知障害(MCI)という段階
正常と認知症の中間にあたる状態を、軽度認知障害(MCI)と呼びます。厚生労働省 e-ヘルスネットでは「物忘れが主たる症状だが、日常生活への影響はほとんどなく、認知症とは診断できない状態」と説明され、次の5項目が診断の目安として挙げられています。
- 年齢や教育レベルの影響のみでは説明できない記憶障害が存在する
- 本人または家族による物忘れの訴えがある
- 全般的な認知機能は正常範囲である
- 日常生活動作は自立している
- 認知症ではない
同ページでは、MCIから年間で10〜15%が認知症に移行するとされると記載されています。認知症の前段階と考えられている一方、この段階で受診し、生活習慣や体の状態を整える機会を持てるという意味もあります。将来推計では2022年のMCIの高齢者数は558.5万人(15.5%)とされており、決して珍しい状態ではありません。
受診を考えたい変化のサイン
次のような変化が続いているときは、早めのご相談で対応しやすくなります。
- 同じことを短い間に何度も尋ねる
- 薬の飲み忘れや飲み過ぎが増えた
- 通い慣れた道で迷った
- 鍋を焦がす、火を消し忘れることが増えた
- お金の管理や支払いでつまずくようになった
- 身だしなみや掃除への関心が薄れた
- 怒りやすくなった、外出や人との交流を避けるようになった
なお、甲状腺の病気、ビタミンの不足、脱水、うつ状態、睡眠不足、薬の影響などでも物忘れが目立つことがあります。これらは対応することで改善が期待できる場合があるため、原因を確かめることに意味があります。
診察で行われること
診察ではまず、いつから何がどう変わったかをうかがいます。日本神経学会の解説でも、診断には「病気の経過や症状の特徴が重要」とされています。あわせて認知機能を確かめる簡単な質問形式の検査や、血液検査で全身の状態を確認します。必要に応じて頭部の画像検査(MRI、CTなど)を行い、ほかの病気との区別をします。
薬による治療については、同解説で、現在の薬は症状を改善し進行を遅らせるものであり「病気そのものの進行を止めることはできません」と説明されています。薬以外に、生活リズムの整え方、ご家族の関わり方、介護保険の申請といった支援の組み立ても大切な部分です。
当院での対応
物忘れの背景に、甲状腺の病気や貧血、脱水などが隠れていることもあります。内科では高血圧・糖尿病・脂質異常症の管理も行っており、これらは脳血管性認知症の予防にも関わります。診療時間は午前9:00〜11:30(水曜・土曜は9:00〜12:30)、午後14:00〜17:30で、水曜午後・土曜午後・日曜・祝日は休診です。はじめて受診される方は初めての方へもご確認ください。
参考文献
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「軽度認知障害」
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/alcohol/ya-033.html - 厚生労働省 政策レポート「認知症を理解する」
https://www.mhlw.go.jp/seisaku/19.html - 厚生労働省「認知症および軽度認知障害(MCI)の高齢者数と有病率の将来推計」
https://www.mhlw.go.jp/content/001279920.pdf - 日本神経学会「神経内科の主な病気(疾患・用語編)アルツハイマー病」
https://www.neurology-jp.org/public/disease/alzheimer.html - 厚生労働省「2022(令和4)年 国民生活基礎調査の概況 Ⅳ 介護の状況」
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/05.pdf
この記事は一般的な医学情報をお伝えするものであり、診断や治療の代わりになるものではありません。症状の受け止め方や必要な検査は、年齢・持病・服用中の薬によって一人ひとり異なります。記事の内容だけで判断せず、当院またはかかりつけの医療機関にご相談ください。生活習慣の管理については健診で「血圧が高め」と言われたら、まず読んでほしいこともあわせてご覧ください。
医療法人 新治診療所 院長。日本消化器病学会 専門医/日本消化器内視鏡学会 専門医。茨城県土浦市下坂田で、内科・小児科・胃腸科の診療にあたっています。わかりやすい説明を心がけ、地域のかかりつけ医として健康維持をお手伝いしています。
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